離れて暮らす高齢の家族との災害時連絡と支援:事前準備と話し合いのポイント
近年、離れて暮らす高齢のご家族の災害時の安否や安全について、不安を感じる方が増えています。大規模な災害が発生した場合、電話やインターネットが繋がりにくくなったり、交通機関が止まったりして、すぐに駆けつけることが難しくなる可能性があります。
このような「もしも」の時に備え、離れて暮らす高齢のご家族と事前に話し合い、具体的な準備をしておくことが非常に大切です。
なぜ離れて暮らす家族との事前準備が大切なのか
災害が発生すると、状況は刻々と変化します。高齢の方は、以下のような理由から、特に支援が必要となる場合があります。
- 情報収集の難しさ: テレビやラジオからの情報に頼ることが多く、停電などで情報が途絶える可能性があります。
- 避難行動の困難: 体力的な不安や持病、移動手段の確保が難しい場合があります。
- コミュニケーションの課題: 連絡手段が限られたり、混乱の中でスムーズな連絡が取れなかったりすることがあります。
- 孤立のリスク: 地域のつながりや近隣との関係性が希薄な場合、孤立してしまう恐れがあります。
離れて暮らす家族がすぐに駆けつけられない状況でも、事前に連絡方法や必要な支援について話し合っておけば、いざという時も落ち着いて行動でき、大切なご家族の安全を守ることにつながります。
事前準備のステップ1:情報共有と連絡方法の確認
まずは、災害発生時の連絡方法や、家族間での情報共有のルールを決めておきましょう。
家族間の連絡ルールの取り決め
- 安否確認の方法: 災害発生時に、誰が、どのような方法で安否確認を行うか決めます。電話が繋がりにくい場合は、災害用伝言ダイヤル(171)や災害用伝言版(web171)、契約している携帯電話会社の災害伝言サービス、LINEやFacebookなどのSNSを活用する方法があります。
- 連絡が取れない場合のルール: 事前に決めた方法でも連絡が取れない場合に、どうするかを決めておきます。例えば、「無事が確認できるまで繰り返し連絡を試みる」「〇日後に連絡が取れない場合は、近隣の〇〇さんに連絡をお願いする」など、具体的な行動を決めておくと安心です。
- 連絡役の指定: 複数の家族がいる場合、誰か一人を連絡役として窓口を一本化すると、混乱を防ぎやすくなります。
高齢のご家族の連絡手段の確認
ご本人が普段どのような連絡手段を使っているか確認しましょう。
- 固定電話、携帯電話、スマートフォンなど、利用している通信手段。
- それぞれの電話番号やメールアドレス。
- スマートフォンの場合、インターネットやSNSを利用できるか。アプリ(LINEなど)を使えるか。
緊急連絡先のリスト作成と共有
家族だけでなく、以下のような方の連絡先リストを作成し、家族で共有しておくと安心です。
- 高齢のご家族の携帯電話や自宅の電話番号
- 離れて暮らす家族全員の連絡先
- 近所に住む信頼できる方(ご本人の了解を得ておく)
- ケアマネージャーやヘルパーなど、普段から関わりのある方の連絡先
- 地域包括支援センターの連絡先
- かかりつけ医の連絡先
これらのリストは、自宅の見やすい場所に貼っておいたり、家族全員が持ち歩く非常用持ち出し袋に入れておくと良いでしょう。
事前準備のステップ2:高齢のご家族の状況把握と共有
災害発生後、どのような支援が必要になるかを考えるために、ご家族の現在の状況を正確に把握し、家族間で共有しておくことが重要です。
- 健康状態と持病: 現在の健康状態、抱えている持病、アレルギーの有無、かかりつけ医や服用している薬の名前、服用方法、薬を受け取っている薬局などを確認します。お薬手帳の場所や、予備の薬の備蓄状況も把握しておきましょう。
- 介護の必要性: 普段、どのような介護サービスを利用しているか、日中や夜間の様子、必要な介助の内容(移動、食事、排泄など)を確認します。
- 避難行動要支援者名簿: お住まいの市区町村で作成している「避難行動要支援者名簿」に登録しているか確認します。登録することで、災害時に自治体や地域の支援団体から安否確認や避難支援を受けやすくなります。登録方法については、お住まいの自治体の窓口(防災課や福祉課など)にお問い合わせください。
- 近所の方との関係性: 普段からご近所の方とどのような交流があるか、いざという時に助け合える関係性があるかなどを確認します。地域の防災訓練への参加や、日頃からの声かけも重要です。
- 自宅周辺の災害リスク: ハザードマップを使って、自宅周辺の地震、津波、洪水、土砂災害などのリスクを確認します。自宅が安全な場所にあるか、避難が必要な場合はどこへ、どのように避難するかを把握します。ハザードマップは、市区町村の窓口やホームページで入手できます。
- 避難場所の選択: 災害の種類や自宅の状況に応じて、どこに避難するのが最も安全かをご本人と話し合います。
- 指定緊急避難場所: 災害発生時に緊急的に身の安全を確保するための場所(近くの公園、頑丈な建物など)。
- 指定避難所: 避難者が一定期間滞在できる場所(学校の体育館など)。
- 福祉避難所: 高齢者や障がい者、乳幼児など、特別な配慮が必要な方が滞在できる避難所。ただし、開設が遅れる場合や対象者が限られる場合があります。
- 親戚や知人宅: 比較的安全な場所にある親戚や知人の家への避難も選択肢となります。
- 在宅避難: 自宅が安全で、電気や水道、食料などの確保が可能であれば、自宅で過ごすことも検討します。
これらの情報は、離れて暮らす家族が共有し、すぐに参照できる状態にしておくことが大切です。
事前準備のステップ3:具体的な支援計画の検討
離れて暮らす家族がすぐに駆けつけられないことを想定し、どのような支援が可能か、誰に支援を依頼するかを具体的に検討します。
- 安否確認の依頼: 連絡が取れない場合、事前に了解を得た近所の方や、地域の民生委員、ケアマネージャーなどに安否確認をお願いできるか相談しておきます。
- 避難支援の依頼: もしご本人が一人で避難するのが難しい場合、誰が避難を支援するか(近所の方、地域の自主防災組織など)を検討し、事前に相談しておきます。
- 物資支援の計画: ご本人の自宅に最低3日分、できれば1週間分の食料、水、常備薬、介護用品などの備蓄があるか確認します。もし不足している場合は、送る手配を検討したり、定期的に補充を促したりします。
- 自宅の安全対策の確認: 過去の災害で被害を受けた場所がないか確認し、家具の固定や窓ガラスの飛散防止フィルムの貼り付けなど、可能な範囲での対策を検討します。
- 災害後の情報伝達方法: 災害が収束した後、どのように情報を伝え合うか(固定電話が復旧したら連絡するなど)も決めておくと良いでしょう。
家族で話し合うポイント
これらの事前準備は、一度行えば終わりではありません。定期的に見直し、家族全員で情報を共有し、話し合うことが重要です。
- 定期的な話し合いの場を持つ: 年に一度など、時期を決めて家族で集まる機会や、電話会議などで話し合う時間を作ります。
- 無理のない範囲で、現実的な計画を: あまりに理想論的な計画ではなく、それぞれの家族の状況や、ご本人の能力、地域の状況を踏まえ、無理のない範囲で現実的な計画を立てましょう。
- 最新の情報共有: ハザードマップの改訂情報や、お住まいの自治体の新しい防災の取り組みなど、最新の情報を共有します。
- 計画の見直し: ご本人の体調の変化や、家族の状況の変化に応じて、計画を定期的に見直します。
どこに相談すれば良いか
災害時に関する情報収集や、具体的な準備について不安がある場合は、一人で抱え込まず、専門機関に相談してみましょう。
- お住まいの市区町村の窓口: 防災担当課でハザードマップや避難場所について、福祉担当課で避難行動要支援者名簿への登録や福祉避難所について相談できます。
- 地域包括支援センター: 高齢者の生活全般に関する相談に応じてくれる機関です。災害時の備えについても相談に乗ってくれます。
- ケアマネージャー: 介護サービスを利用している場合、ケアマネージャーに相談することで、災害時の介護サービスの継続や、避難に関する具体的なアドバイスを得られることがあります。
- 民生委員: 地域住民の身近な相談相手として、様々な相談に乗ってくれます。災害時の地域での助け合いについても相談できる場合があります。
まとめ:安心のための第一歩を踏み出しましょう
離れて暮らす高齢のご家族の災害対策は、ご本人にとっても、離れて暮らす家族にとっても、大きな安心につながります。一度に全てを準備するのは大変に感じるかもしれませんが、まずは家族で話し合う時間を持つこと、お住まいの自治体のハザードマップを見てみることから始めてみましょう。
事前の話し合いと準備は、「もしも」の時に大切なご家族の命を守る、最も確実な方法の一つです。この記事が、そのための具体的な一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。