自宅や親戚宅も選択肢に:高齢者のための災害時避難方法
自宅や親戚宅も選択肢に:高齢者のための災害時避難方法
大きな地震や台風など、いつ起こるか分からない災害への備えは、高齢者の皆さまやご家族にとって特に大切です。避難と聞くと、多くの方が「避難所へ行くこと」を思い浮かべるかもしれません。しかし、体力に不安がある方、持病がある方、介護が必要な方が、必ずしも避難所での共同生活に適しているとは限りません。
このため、自宅の安全が確保できる場合や、頼れる親戚・知人宅など、避難所以外の場所も選択肢として考えておくことが重要です。ご自身や大切なご家族にとって、どのような避難方法が最も安全で安心できるのか、一緒に考えてみましょう。
なぜ避難所以外の選択肢を考える必要があるのか
高齢者の皆さまにとって、避難所での生活にはいくつかの心配事があるかもしれません。
- 体力の負担: 避難所への移動や、避難所での段差などでの移動が大変になる可能性があります。
- 健康管理: 持病の悪化、薬の管理、感染症への不安などが考えられます。
- 生活環境の変化: 大勢の方との共同生活によるストレスや、プライバシーの確保が難しい場合があります。
- 介護: 介護が必要な場合、避難所の設備や人手によっては十分な介護が難しい場合があります。
これらの理由から、自宅やその他の場所での避難(「分散避難」や「縁故避難」とも呼ばれます)が、より安全で快適な選択肢となる場合があります。
どのような避難方法があるのか
災害時の避難方法には、主に以下の選択肢があります。
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広域避難場所・指定緊急避難場所への避難:
- 地震による火災、津波、洪水、土砂災害など、自宅や周辺に危険が迫っている場合に、命を守るために一時的に避難する場所です。
- 自治体が指定しており、多くは公園や学校のグラウンド、体育館などです。
- 危険から逃れるための緊急性の高い避難先です。
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指定避難所(福祉避難所を含む)への避難:
- 自宅が倒壊したり、浸水したりして住めなくなった場合に、一定期間生活を送るための場所です。
- 体育館や公民館などが指定されることが多いです。
- 福祉避難所は、高齢者、障害のある方など、特別な配慮が必要な方が優先的に利用できる避難所です。ただし、開設が遅れる場合や、事前登録が必要な場合もあります。
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在宅避難:
- 自宅の安全が確保され、ライフライン(電気、ガス、水道)の一部または全部が維持されるか、復旧の見込みがある場合に、自宅で避難生活を送る方法です。
- 慣れた環境で過ごせるため、高齢者や持病のある方、介護が必要な方にとっては、避難所に行くよりも負担が少ない場合があります。
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縁故避難(親戚・知人宅などへの避難):
- 安全な場所に住む親戚や知人の家で避難生活を送る方法です。
- ある程度プライバシーが確保され、顔見知りの支援が得られるため、精神的な安心感につながることがあります。
自宅での避難(在宅避難)を考える
自宅が地震で倒壊する危険性が低く、浸水や土砂災害の心配がない場所に建っている場合は、在宅避難が有効な選択肢となります。
在宅避難のために準備すること
- 自宅の安全確認: 事前に、専門家による耐震診断を受けたり、家具の固定をしたりしておくことが非常に重要です。お住まいの自治体で耐震診断や改修の補助金制度がないか確認してみましょう。
- 備蓄品の準備: ライフラインが止まることを想定し、最低3日分、できれば1週間分の水、食料(常温保存可能なもの)、カセットコンロとガスボンベ、携帯トイレなどを備蓄します。高齢者の方の食事は、歯の状態や飲み込みやすさも考慮して、やわらかいものや流動食なども含めると良いでしょう。
- 医薬品・介護用品の準備: 普段飲んでいる薬は、かかりつけ医に相談し、少し多めに処方してもらうなどして、常に1週間分以上の予備を確保しておきましょう。お薬手帳のコピーも忘れずに。オムツやウェットティッシュなど、介護に必要な物資も多めに備蓄します。
- 情報収集手段の確保: 停電しても使える携帯ラジオや、携帯電話の充電器(モバイルバッテリー)を用意します。手回し充電式のものや、乾電池式のものが便利です。
- 寒さ・暑さ対策: 毛布やカイロ、扇風機やうちわなど、季節に応じた対策も必要です。
親戚・知人宅への避難を考える
安全な場所に住む親戚や知人がいる場合は、事前に相談しておき、いざという時に避難させてもらえるようにお願いしておくことも有効な方法です。
親戚・知人宅への避難のために準備すること
- 事前の相談と合意: どの親戚・知人に、いつ、どのような状況でお願いする可能性があるのか、具体的に話し合っておきましょう。受け入れ側の負担も考慮が必要です。
- 移動手段の確認: どのようにして親戚・知人宅まで移動するかを決めておきます。公共交通機関が止まる可能性も考え、複数の移動手段を検討しておきましょう。自家用車での移動が難しい場合、タクシーや福祉車両の手配が可能かなども調べておくと良いかもしれません。
- 持ち出し品の準備: 在宅避難と同様に、医薬品、お薬手帳、健康保険証、衣類、タオル、携帯電話、充電器、常備薬などをすぐに持ち出せるように準備しておきます。訪問先に負担をかけすぎないよう、最低限必要なものは自分で用意する心構えが大切です。
- 受け入れ先への情報提供: ご自身の体調や持病、必要な配慮などについて、事前に伝えておくことで、受け入れ側も安心して準備ができます。
避難計画を立てるステップ
これらの選択肢を踏まえて、ご自身やご家族に合った避難計画を立ててみましょう。
- 自宅の安全性を確認する: ハザードマップでお住まいの地域の災害リスク(洪水、土砂災害、津波など)を確認し、自宅の耐震性についても把握します。
- 家族で話し合う: どのような災害時に、どこへ避難するのが一番良いのか、家族全員で話し合います。それぞれの体調や必要な配慮についても共有しましょう。
- 避難先候補を検討する:
- 自宅の安全が確認できれば、在宅避難が可能か。
- 頼れる親戚や知人はいるか。避難をお願いできるか。
- 自治体が指定する避難場所はどこか。福祉避難所はあるか。
- 避難方法とルートを決める: 避難先候補が決まったら、そこまでの具体的な移動手段やルートを複数検討します。
- 持ち出し品リストを作成し、準備する: 災害発生時にすぐに持ち出せるよう、食料、水、医薬品、貴重品などをまとめた非常用持ち出し袋を準備します。リストを作成し、定期的に内容を確認・更新しましょう。
- 情報収集の方法を確認する: 災害発生時にどのような方法(テレビ、ラジオ、自治体の防災無線、インターネット、SNSなど)で正確な情報を得るか確認しておきます。高齢者の方にとって、テレビやラジオが最も確実な情報源となる場合があります。
- 地域の助け合いを考える: 近所の住民や民生委員、自治体の窓口など、地域とのつながりも大切です。日頃からコミュニケーションを取り、いざという時に助け合える関係を築いておくことも防災につながります。
どこに相談すれば良いのか
避難計画や準備について不安なことや分からないことがあれば、一人で抱え込まずに専門機関や地域の窓口に相談しましょう。
- お住まいの市区町村役場: 防災課や高齢福祉課などで、ハザードマップの入手方法、地域の避難場所、福祉避難所、耐震診断の補助金制度などについて相談できます。
- 地域包括支援センター: 高齢者の暮らしに関する様々な相談に乗ってくれます。災害への備えについても相談できる場合があります。
- 民生委員・児童委員: 地域の身近な相談相手として、必要な情報提供や支援につなげてくれることがあります。
まとめ:自分たちに合った「あんしん避難」を
災害時の避難方法は一つだけではありません。避難所への避難だけでなく、自宅での避難や親戚・知人宅への避難など、様々な選択肢があります。ご自身やご家族の状況、お住まいの地域の特性に合わせて、最も安全で安心できる方法を事前に考えておくことが大切です。
まずは、家族で話し合い、お住まいの地域のハザードマップを確認することから始めてみましょう。そして、分からないことや不安なことがあれば、自治体の窓口や地域包括支援センターに相談してみてください。
この記事が、皆さまの災害への備え、そして「あんしん避難」のための具体的な一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。