もしもの時の『助けて』を安心に:高齢者と家族のための地域・専門機関連携ガイド
災害は、いつ、どこで起こるか予測できません。特に高齢の方や、ご家族に介護が必要な方がいる場合、災害時に「もし助けが必要になったらどうしよう」「誰に頼めば良いのだろう」といった不安を感じることは自然なことです。
災害時は、ご自身の備え(自助)はもちろん大切ですが、それだけでは対応が難しい場面も出てきます。そんな時、地域の方々との助け合い(共助)や、日頃から関わりのある専門機関(福祉サービス、医療機関など)の存在は、命や暮らしを守る上で非常に大きな支えとなります。
この記事では、高齢の方とそのご家族が、災害時に孤立せず、必要な支援を安心して受けられるように、日頃からできる「つながり」の備えについて、具体的な方法をご紹介します。
なぜ『助け合い』の備えが必要なのか
高齢の方は、災害発生時に以下のような様々な困難に直面しやすいと言われています。
- 情報の入手が遅れる、分かりにくい: テレビやラジオ以外の情報源(インターネットなど)の利用が難しく、必要な情報がすぐに手に入らないことがあります。
- 避難の判断や移動に時間がかかる: 体力的な不安や、すぐに動けない体の状態により、避難開始が遅れたり、安全な場所に移動することが難しかったりします。
- 持病の悪化や薬の管理が困難になる: 慣れない避難生活や環境の変化により、持病が悪化したり、必要な薬が手に入りにくくなったりします。
- 孤立してしまう: 周囲に支援を求められず、一人で困難を抱え込んでしまうことがあります。
行政による支援(公助)には限界があり、災害発生直後からすぐにきめ細やかな支援が行き届かない場合もあります。だからこそ、まずはご自身の備え(自助)をしっかりと行うとともに、地域の中で互いに助け合う「共助」の力を育てておくことが非常に重要になります。特に高齢者の場合、この「共助」、つまり近隣の方々や地域の支援が生命線になることがあります。
「助けを求めることは恥ずかしい」「迷惑をかけたくない」と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、決してそのようなことはありません。災害時は誰もが被災者であり、困難な状況に置かれます。互いに支え合い、連携することが、地域全体の安全につながるのです。
地域との『つながり』を育む日頃の準備
いざという時に地域の方に助けを求めたり、支援を受け入れたりするためには、日頃からの『つながり』が欠かせません。難しく考える必要はありません。まずはできることから始めてみましょう。
- 近所の方との挨拶、声かけ 日常的な挨拶や短い会話を交わすことから始めましょう。顔見知りが増えるだけでも、お互いに気にかける気持ちが生まれやすくなります。災害時、「あの家のおじいさん、大丈夫かな」と誰かが思ってくれるかもしれません。
- 地域の行事や集まりへの参加(可能な範囲で) 自治会や町内会のお祭り、地域の清掃活動など、参加しやすいものがあれば顔を出してみるのも良いでしょう。地域の活動に関わることで、様々な方と知り合うきっかけになります。
- 自治会や町内会の活動内容を知る お住まいの地域の自治会や町内会が、災害時にどのような活動をする予定か、避難訓練は行っているかなどを知っておくと安心です。広報誌や回覧板などで情報収集してみましょう。
- 災害時要援護者登録制度の検討 多くの自治体では、高齢者や障害のある方など、災害時に自力での避難が難しい方を対象に「災害時要援護者名簿」を作成し、地域で支援する仕組みを整えています。この名簿に登録することで、自治体や地域の自主防災組織などが、災害時に安否確認や避難支援を行う際の参考とします。登録は任意ですが、ご自身の状況や不安がある場合は、お住まいの自治体の担当窓口に相談してみることをお勧めします。
家族ができるサポート
離れて暮らす高齢のご家族のために、ご家族ができるサポートもあります。
- 親御さんが住む地域の自治体ホームページなどで、防災情報や災害時要援護者登録制度について一緒に確認してみましょう。
- もし可能であれば、地域の防災訓練に一緒に参加したり、訓練の様子を見に行ったりすることで、地域の取り組みを知ることができます。
- 親御さんの近所の方と、日頃から挨拶や簡単なコミュニケーションを取っておくと、親御さんの様子を気にかけやすくなります。
専門機関との『つながり』を築く準備
日頃から利用している福祉サービスや医療機関も、災害時の重要な支援者となり得ます。
- ケアマネジャーや地域包括支援センターへの相談 介護保険サービスを利用している場合、担当のケアマネジャーは、ご本人の体の状態や生活状況をよく把握しています。災害時の避難について不安なこと、必要な支援について、ケアマネジャーに相談してみましょう。また、介護保険を利用していなくても、地域包括支援センターは高齢者の総合相談窓口です。災害時の備えや地域の情報について相談に乗ってくれます。
- かかりつけ医との連携 持病がある方は、災害時の体調管理や、お薬が途切れないようにするための備えについて、かかりつけ医にあらかじめ相談しておきましょう。「お薬手帳」を常に携帯することも大切です。
- 利用中の福祉サービスの事業所への確認 ヘルパーやデイサービスなど、利用している福祉サービス事業所が、災害時にどのような対応をするのか、確認しておきましょう。事業所によっては、安否確認や可能な範囲での支援を行ってくれる場合があります。
- 自治体の福祉担当窓口への相談 どこに相談して良いか分からない場合は、まずお住まいの自治体の福祉担当窓口に問い合わせてみましょう。様々な相談先や利用できる制度について教えてくれます。
日頃からの『助け合い』準備チェックリスト
ご自身やご家族のために、日頃からできる「つながり」の備えを確認してみましょう。
- [ ] 近所の方と日頃から挨拶を交わしていますか。
- [ ] 地域の自治会や町内会に加入していますか。
- [ ] 地域の防災訓練や行事について関心を持っていますか。
- [ ] お住まいの自治体の「災害時要援護者登録制度」について知っていますか。登録を検討しましたか。
- [ ] ケアマネジャーや地域包括支援センターに、災害時の避難や必要な支援について相談しましたか。
- [ ] かかりつけ医に、災害時の体調管理や薬の備えについて相談しましたか。
- [ ] 利用している福祉サービス事業所の災害時の対応方針を確認しましたか。
- [ ] 災害時に「困ったな」と思った時、誰に連絡したり、助けを求めたりすれば良いか、リストアップしていますか(親戚、友人、近所の方、自治体、ケアマネジャーなど)。
- [ ] 家族とこれらの「つながり」の備えについて話し合いましたか。
チェックが入らなかった項目があれば、ぜひ一歩踏み出してみてください。
まとめにかえて
災害時における高齢の方の安全は、ご自身の備えだけでなく、地域の方々との助け合いや、専門機関との連携によって、より確かなものになります。「もしもの時」に「助けて」と言える、そして言われた時に「大丈夫?」と声をかけられる関係性は、日頃からの小さなコミュニケーションの積み重ねから生まれます。
不安なことがあれば、一人で悩まず、まずは身近な人や、地域包括支援センター、自治体の福祉担当窓口などに相談してみることをお勧めします。皆様が安心して災害に備え、乗り越えられるよう願っております。