高齢者が避難所で安心するための備えと過ごし方
はじめに
地震や台風などの災害は、いつ起こるか予測できません。万が一、自宅での生活が難しくなり避難所へ移動することになった場合、高齢者の方にとっては、慣れない環境での生活に多くの不安を感じることがあるかもしれません。
しかし、事前に少しの準備をしておくだけで、いざという時の避難所での生活を、より安心して過ごすことができます。このガイドでは、高齢者の方とそのご家族が、避難所で困らないための具体的な備えと、避難所での過ごし方のポイントをご紹介します。
高齢者が避難所で直面しやすい課題
避難所は多くの人が集まる場所です。特に高齢者の方は、次のような課題に直面しやすいと言われています。
- プライバシーや休息の確保: 大勢の中での生活は、落ち着いて休むことが難しい場合があります。
- 感染症のリスク: 人が集まることで、風邪や感染症にかかりやすくなる可能性があります。
- 慣れない環境での体調管理: 持病がある方、食事や睡眠のパターンが変わることによる体調の維持が難しくなることがあります。
- トイレや移動の困難さ: 避難所の設備によっては、移動が大変だったり、夜間のトイレ利用に不安を感じたりすることがあります。
- 必要な情報の入手: 災害情報や生活に関する情報が、聞き取りにくかったり、目に入りにくかったりすることがあります。
これらの課題に対し、事前に準備をしておくこと、そして避難所での過ごし方を知っておくことが大切です。
避難所生活のための具体的な備え
1. 避難時の持ち物を確認しましょう
避難所に持っていく非常持ち出し袋に、高齢者の方にとって特に必要なものを加えることが重要です。一般的な非常持ち出し品に加えて、以下のものを用意しましょう。
- 持病の薬と「お薬手帳」: 数日分(可能であれば1週間分以上)の薬と、必ずお薬手帳(または薬剤情報提供書)を携帯してください。アレルギー情報なども記載しておきましょう。
- かかりつけ医や緊急連絡先のメモ: 連絡先や持病、アレルギー、注意してほしいことなどを書いたメモがあると、助けてもらう際に役立ちます。
- 健康保険証、診察券、介護保険被保険者証のコピー: 身分を証明し、医療や介護サービスを受ける際に必要になります。原本もすぐに持ち出せるようにしておきましょう。
- 補聴器、入れ歯、メガネ: 普段使用しているこれらを忘れないようにしましょう。予備の電池(補聴器用)や洗浄剤なども忘れずに。
- 常備食や嗜好品: 消化しやすいものや、普段食べ慣れているもの、気分を落ち着かせるお菓子などがあると安心です。
- 温かく過ごせるもの: 毛布やブランケット、使い捨てカイロ、保温性の高い下着など。体育館などの避難所は冷え込みやすいです。
- 履き慣れた靴: 避難所内や移動時に安全に過ごすため、スリッパだけでなく底のしっかりした靴があると良いでしょう。
- ウェットティッシュ、おむつ、生理用品: 衛生用品は限られる場合があるため、普段使用しているものを準備しておくと安心です。
- 筆記用具とメモ帳: 伝えたいことや必要な情報を書き留めるのに役立ちます。
2. 避難所に関する情報を確認しましょう
お住まいの自治体が指定する避難所がどこにあるか、事前に確認しておきましょう。歩いて行ける距離か、安全な経路はどこかなどを把握しておくことが大切です。
また、高齢者や障がいのある方など、特別な配慮が必要な方のための「福祉避難所」が設けられる場合もあります。福祉避難所は開設されるまでに時間がかかることや、受け入れに条件がある場合があるため、お住まいの自治体の情報を確認し、必要であれば事前に相談しておくと良いでしょう。
3. 家族や地域との連携を考えましょう
- 連絡方法の確認: 災害発生時の家族間の連絡方法(電話がつながりにくい場合の代替手段など)を決めておきましょう。
- 避難のタイミングや場所の共有: どこに避難するか、誰と避難するかなどを事前に話し合っておきましょう。
- 支援が必要な場合の伝え方: 一人暮らしの場合や、避難に介助が必要な場合は、事前に地域の民生委員や自治会の担当者、ケアマネジャーなどに相談しておき、災害時に支援が必要となる可能性があることを伝えておくと、いざという時の連携につながることがあります。
避難所での過ごし方のポイント
- 遠慮しすぎず、困ったことは伝えましょう: 体調が悪くなった、必要なものがある、トイレに行くのが難しいなど、困ったことがあれば我慢せずに、避難所の担当者や周囲の人に相談してください。
- 体調管理に気をつけましょう:
- 水分補給をこまめに行いましょう。
- 配布される食事だけでなく、持参した食べ物も活用し、可能な範囲でバランス良く栄養を摂るようにしましょう。
- 横になって休む時間を確保しましょう。夜は耳栓などがあると眠りやすくなる場合があります。
- 血行が悪くならないよう、座ったままでもできる簡単な体操や足踏みなどを適度に行いましょう。
- 感染症対策を心がけましょう: 石鹸やアルコール消毒液でこまめに手洗いをしましょう。咳が出る時はマスクをつける、口元を覆うなどの咳エチケットを守りましょう。
- 情報の入手: 避難所では、災害状況や今後の生活に関する情報が張り出されたり、放送で伝えられたりします。大切な情報が流れるので、注意して聞くようにしましょう。
- プライバシー確保の工夫: 大きなタオルや段ボールなどを活用して、寝る場所の周囲を囲むなどの工夫をすることで、少しでもプライバシーを守り、落ち着ける空間を作ることができます。
どこに相談すれば良いか分からない場合
避難計画や準備について、誰に相談すれば良いか分からないと感じる方もいらっしゃるかもしれません。そのような場合は、まずはお住まいの市区町村の窓口(防災担当課や福祉課など)に問い合わせてみてください。地域の相談窓口や、利用できるサービスについて情報を提供してもらえることがあります。
また、普段から関わりのあるケアマネジャーや民生委員、地域の社会福祉協議会などに相談してみることも良いでしょう。
まとめ
災害時の避難所生活に対する不安は、事前の備えと正しい知識を持つことで、やわらげることができます。このガイドでご紹介した持ち物の確認や避難所の情報収集、家族や地域との連携、そして避難所での過ごし方のポイントを参考に、できることから少しずつ準備を始めてみてください。
いざという時に「知っている」「準備している」ということが、大きな安心につながります。もし不安なことや分からないことがあれば、一人で抱え込まず、自治体や地域の相談窓口に遠慮なく相談してください。皆様の安全と安心を心より願っています。