高齢者のための災害時持ち出し袋と備蓄:持病・介護に合わせた備え方
はじめに:なぜ高齢者のための持ち出し袋と備蓄が大切なのか
災害はいつ起こるか予測できません。特に、ご高齢の方や、持病をお持ちの方、介護が必要なご家族がいらっしゃる場合、もしもの時のために準備しておくことは、ご自身や大切な方を守るために非常に重要です。
災害発生時には、すぐに避難が必要になる場合(一次避難)と、自宅や比較的安全な場所でしばらく過ごす場合(二次避難や在宅避難)が考えられます。それぞれの状況に備えるために、「持ち出し袋」と「自宅での備蓄」という二つの準備が大切です。
この記事では、高齢者の方やそのご家族が、安心して災害に備えられるよう、具体的にどのようなものを持ち出し袋に入れ、どのようなものを自宅に備蓄しておけば良いのかをご説明します。特に、持病や介護に合わせた備え方にも焦点を当ててご紹介します。
災害発生!まず持ち出すもの(一次避難)
地震や水害など、急な災害発生時に、すぐに安全な場所に避難するために持ち出すものが「非常用持ち出し袋」です。避難場所までの道のりや、避難所で数日間過ごすことを想定した、必要最低限のものを用意します。高齢者の方が持ち出す際に注意したいのは、重すぎないようにすることと、両手が使えるリュックサックなどが適していることです。
高齢者のための持ち出し袋チェックリスト
以下のリストを参考に、ご自身やご家族に必要なものを準備しましょう。
- 貴重品
- 現金(公衆電話や自動販売機が使えない場合もあります)
- 印鑑、通帳、権利書などのコピー
- 健康保険証、後期高齢者医療被保険者証のコピー
- 運転免許証など身分証明書のコピー
- 飲料水・食料品
- 水(500mlペットボトルなど、持ち運びやすい量)
- 乾パン、カロリーメイト、ようかんなど、火を使わずに食べられるもの
- 医薬品・衛生用品
- 常備薬(数日分、多めに準備できると安心です)
- お薬手帳のコピー(服用している薬の種類や量、かかりつけ医の情報が分かります)
- 絆創膏、消毒液などの救急用品
- マスク
- ウェットティッシュ、除菌シート
- 携帯用トイレ
- 生理用品(必要な方)
- 入れ歯、入れ歯洗浄剤、入れ歯安定剤(必要な方)
- メガネ、コンタクトレンズ用品(必要な方)
- 補聴器、予備の電池(必要な方)
- 衣類・寝具
- 下着、靴下
- 動きやすい長袖、長ズボン(重ね着できるものが良いです)
- 薄手の毛布やタオルケット(防寒用)
- あると便利なもの
- 小型ラジオ、予備の電池(正確な情報を得るために)
- 懐中電灯、ヘッドライト(両手が使えて便利です)、予備の電池
- 携帯電話の充電器、モバイルバッテリー
- 笛(助けを呼ぶために)
- 油性ペン、メモ帳
- 軍手
- ポリ袋(大小いくつかあると便利です)
持病や介護が必要な方のための追加チェックリスト
- 服用中の薬:医師や薬剤師に相談し、災害時用の予備を準備できるか確認しましょう。最低3日分、できれば1週間分あると安心です。
- インスリンや注射器:保冷が必要な薬の場合は、携帯用の保冷剤や保冷バッグも準備します。
- 医療機器:人工呼吸器や吸引器などを使用している場合は、予備のバッテリーや電源確保の方法を確認します。
- 介護用品:おむつ、清拭シート、使い捨て手袋、とろみ調整食品、経管栄養剤など、普段使用しているものを数日分準備します。
- 情報カード:氏名、住所、生年月日、血液型、持病、アレルギー、かかりつけ医、緊急連絡先、服用中の薬、必要な医療処置などを記載したカードを携帯します。
これらのものは、すぐに持ち出せる場所に置いておくことが重要です。玄関や寝室の近くなど、避難経路を妨げない場所に保管しましょう。家族全員でどこに置いているか確認しておくことも大切です。
自宅での備蓄:もしもの時に自宅で過ごすために
災害の規模によっては、自宅にとどまる(在宅避難)か、避難所がすぐに利用できない場合があります。また、避難所が満員であったり、ご自身の体調や介護の必要から避難所での生活が難しい場合もあります。そのような場合に備え、自宅で数日間(最低3日間、可能であれば1週間分)生活できるだけの食料品や生活用品を備蓄しておくことが大切です。
高齢者のための自宅備蓄チェックリスト
自宅備蓄では、持ち出し袋とは異なり、少し多めに、そして普段の生活に近いものを準備できます。
- 飲料水:1人1日3リットルを目安に、数日分。保管場所に注意し、定期的に入れ替えましょう。
- 食料品:
- 長期保存可能なレトルト食品、缶詰
- フリーズドライ食品
- 乾麺、インスタント食品
- パックご飯
- 栄養補助食品(ゼリー飲料など、食欲がない時にも)
- お菓子(気分転換に)
- ポイント:高齢者向けには、やわらかいもの、調理が簡単なもの、お湯や水を注ぐだけで食べられるもの、アレルギーに配慮したものを選びましょう。
- 生活用品:
- カセットコンロ、カセットボンベ(換気に注意して使用)
- トイレットペーパー
- ティッシュペーパー
- ゴミ袋
- ラップ、アルミホイル(食器洗いを減らせます)
- 使い捨てカイロ
- 簡易トイレ、凝固剤
- マッチやライター
- 洗面用具、タオル
- 医薬品・衛生用品:
- 常備薬(多めに備蓄、定期的に使用期限を確認)
- マスク
- ウェットティッシュ、消毒液
- 体温計
- 冷却シート
- あると便利なもの:
- 携帯ラジオ、予備の電池
- 懐中電灯
- モバイルバッテリー
- ポリタンク(給水支援を受けた時に)
持病や介護が必要な方のための追加備蓄
- 常備薬:かかりつけ医や薬剤師と相談し、可能な範囲で多めに(最低1週間分、可能であれば2週間分など)備蓄します。定期的な受診の際に相談してみましょう。
- 医療機器の消耗品:カテーテル、ガーゼ、人工肛門・人工膀胱用品など、普段使用している消耗品を多めに備蓄します。
- 介護用品:紙おむつ、尿取りパッド、清拭剤、口腔ケア用品、とろみ調整食品、介護食(栄養剤など)、使い捨て手袋などを普段より多めに備蓄します。特に紙おむつなどはかさばるため、計画的に備蓄しましょう。
- ポータブル電源:医療機器の電源や、情報収集のための電源として役立ちます。
備蓄する場所は、直射日光や高温多湿を避けた場所を選びましょう。キッチンや物置、押し入れなどが考えられます。何をどこに備蓄したかをリストアップしておき、家族と共有することも大切です。
備蓄品を無駄にしないために
備蓄した食料品や飲料水は、使用期限があります。定期的に(年に数回など)中身を確認し、使用期限が近いものから普段の食事に取り入れて消費し、消費した分を買い足す「ローリングストック」という方法を取り入れると、無駄なく備蓄を維持できます。
まとめ:安心のための第一歩を踏み出しましょう
災害への備えは、一度やれば終わりではありません。ご自身の体調やご家族の状況の変化に合わせて、持ち出し袋や備蓄品を定期的に見直すことが大切です。
「何を準備すれば良いか分からない」「量が分からない」と不安に感じることもあるかもしれません。まずはリストを参考に、できることから少しずつ始めてみましょう。家族やケアマネージャー、地域の社会福祉協議会、役所の高齢福祉課などに相談してみるのも良い方法です。
災害は不安ですが、適切な準備をすることで、もしもの時にも落ち着いて行動し、安全を確保することができます。この記事が、皆様の安心につながる一助となれば幸いです。