高齢者のための「マイ避難計画」の始め方:ご家族と一緒に確認すること
災害への備え、何から始めれば良いのでしょう
大きな災害のニュースを見ると、不安になることもあるかもしれません。特に高齢者の皆様や、ご家族の介護をされている方にとっては、「もしもの時、自分はどうなるのだろう」「家族をどう守れば良いのだろう」といった心配があるかと思います。
どこへ避難すれば良いのか、持病の薬は足りるのか、避難所での生活はできるのか。考えるほどに、何から手をつければ良いのか分からなくなってしまうかもしれません。
しかし、もしもの時に慌てず、少しでも安心して行動するために、事前にできることがあります。それは、「マイ避難計画」を立てておくことです。難しく考える必要はありません。まずは、ご自身やご家族にとって何が必要か、一緒に話し合い、確認することから始めてみませんか。
このガイドでは、高齢者の皆様やご家族が、「マイ避難計画」を始めるための具体的なステップをご紹介します。少しずつ準備を進めることで、安心につながるはずです。
なぜ高齢者には個別の避難計画が必要なのですか
災害時の避難は、若い方や健康な方でも大変なものです。高齢者の皆様にとっては、さらにいくつかの特別な配慮が必要となる場合があります。
- 体力や移動能力の低下: 避難場所まで安全に移動できるか、時間がかかるのではないかといった心配があります。
- 持病や服用中の薬: 避難中に持病が悪化しないか、毎日飲む薬をどう確保するかが重要です。お薬手帳やかかりつけ医の情報も必要になります。
- 介護や医療的ケア: 日常的に介護が必要な方や、医療機器を使用している方は、避難生活が難しくなることがあります。
- 情報収集手段: 災害時には様々な情報が飛び交いますが、テレビやラジオ、地域の情報が主な手段となる方もいらっしゃるかもしれません。必要な情報を正確に得るための方法を確認しておくことが大切です。
- 避難所での生活: 多くの人が集まる避難所では、プライベートの確保が難しかったり、段差や慣れない環境で体調を崩したりする可能性があります。
こうした高齢者ならではの課題を踏まえ、ご自身やご家族の状況に合った計画を立てることが、いざという時の命を守ることにつながります。
「マイ避難計画」を立てるための3つのステップ
では、具体的にどのように計画を立てれば良いのでしょうか。まずは、次の3つのステップで考えてみましょう。ご家族と一緒に話し合いながら進めるのがおすすめです。
ステップ1:『いつ』避難するかを考える
「避難してください」という情報が出たとき、いつ行動を起こすかを事前に決めておきます。
- どの情報を見たら避難を始めるか: 自治体からの避難情報(高齢者等避難、避難指示など)、地域の防災無線、テレビやラジオの速報など、どの情報に注目するかを家族と共有しておきましょう。
- どのような状況になったら避難するか: 近所の川の水位が上がってきた、裏山が崩れそう、など、自宅周辺の危険な場所や状況を事前に確認し、その状況になったら避難を開始するなど、具体的な判断基準を決めておくと良いでしょう。ハザードマップで自宅周辺の災害リスクを確認しておくことが非常に役立ちます。
ステップ2:『どこへ』避難するかを考える
必ずしも指定の避難所だけが選択肢ではありません。ご自身の状況に合った避難先をいくつか検討しておきましょう。
- 指定避難所: 自治体が指定している避難所です。最寄りの避難所の場所やそこまでの安全な経路を事前に確認しておきましょう。可能であれば、避難所の入口や内部の様子なども見ておくと安心です。
- 福祉避難所: 高齢者や障がいのある方など、特別な配慮が必要な方のための避難所です。ただし、開設されるタイミングや対象者が限られる場合がありますので、事前に自治体に確認が必要です。
- 親戚や知人の家: 災害リスクが低い地域の親戚や知人の家も、避難先として有効な選択肢です。事前に相談し、受け入れが可能か確認しておきましょう。
- 安全な場所にある宿泊施設: 経済的に可能であれば、ホテルなどへの避難も選択肢の一つです。
複数の選択肢を持つことで、状況に応じた避難が可能になります。
ステップ3:『どうやって』避難するかを考える
避難先が決まったら、そこまでどのように移動するかを考えます。
- 移動手段: 徒歩、車、公共交通機関など、考えられる手段を確認します。ただし、災害時は道路の損壊や交通機関の麻痺が予想されますので、複数の手段や代替ルートを考えておくことが重要です。
- 安全な経路: ハザードマップなどを確認し、浸水や土砂崩れなどの危険がない、できるだけ安全な経路を選びましょう。夜間や悪天候時の避難も想定し、視界が悪くても分かりやすい目印などを確認しておくと良いかもしれません。
- 介助が必要な場合: 避難時の移動に介助が必要な場合は、誰がどのように介助するかを具体的に決め、複数人で役割分担できるようにしておくと安心です。地域の支援者と連携することも検討しましょう。
高齢者ならではの備え:計画にプラスすること
「マイ避難計画」には、高齢者ご本人やご家族の健康状態、日々の生活に必要なものを加味した特別な備えを含めることが非常に重要です。
1. 持病・健康に関する備え
- お薬手帳と薬のリスト: 現在服用している全ての薬の名前、量、飲み方、かかりつけ医の連絡先などをメモしておきましょう。できれば、普段使っているお薬手帳のコピーを取っておくと良いです。
- 常備薬の確保: 普段飲んでいる薬は、予備を多めに(最低1週間分、可能であれば2週間分)確保しておきましょう。かかりつけ医や薬局に相談してみてください。
- 診断書・同意書: 介護サービスや医療的ケアを普段受けている場合は、状況を説明できる書類があると、避難先での支援につながりやすくなります。
- かかりつけ医・ケアマネジャーとの連携: 災害時の対応について、事前に相談しておくと安心です。
2. 介護用品・日常生活品に関する備え
- 介護用品: 紙おむつ、おしりふき、とろみ剤、栄養補助食品など、普段使っている介護用品は、多めに備蓄しておきましょう。
- 補聴器の電池、眼鏡の予備: 日常生活に欠かせないものは、予備を用意しておくと安心です。
- 使い慣れたもの: 入れ歯洗浄剤、杖、歩行器など、普段使っているものも忘れずに避難リュックに含めるか、すぐに持ち出せる場所に置いておきましょう。
- 衛生用品: 普段使っている石鹸やシャンプー、歯ブラシ、ウェットティッシュなども、ミニサイズを用意しておくと便利です。
3. 避難時の移動に関する備え
- 歩きやすい靴: 避難時は瓦礫などがあるかもしれません。底が厚く、歩き慣れた靴を選びましょう。
- 防寒具・雨具: 季節に応じた上着や、急な雨に対応できる雨具も準備しておきましょう。
- 持病がある方向けの携行品: ぜんそくの方は吸入器、糖尿病の方はインスリンや血糖測定器、低血糖時のブドウ糖など、持病に対応するために必要なものを忘れずに準備し、すぐに取り出せるようにしておきましょう。
ご家族での話し合いと役割分担
「マイ避難計画」は、ご家族で一緒に考えることが最も重要です。
- 全員で情報を共有する: 災害リスク、避難場所、避難方法、連絡手段などを家族全員で共有しましょう。
- 役割分担を決める: 誰が避難情報を確認するか、誰が高齢者の避難をサポートするか、誰が避難グッズを持ち出すかなど、あらかじめ役割を決めておくと、いざという時にスムーズに行動できます。
- 離れて暮らす家族との連絡方法: 災害時、電話回線が混み合う可能性があります。携帯電話の災害用伝言ダイヤルやインターネットの災害用伝言板、LINEなどのSNSを使った連絡方法などを事前に決めておきましょう。実家にいる親御さんの状況を、離れたお子さんがどのように確認するか、具体的な方法を決めておくことが大切です。
地域や自治体に相談してみましょう
一人で抱え込まず、地域の資源を活用することも安心につながります。
- ハザードマップの確認: お住まいの地域のハザードマップ(洪水、地震、土砂災害などの危険を示す地図)を必ず確認しましょう。自治体のホームページや地域の公民館などで入手できます。自宅がどのようなリスクのある地域にあるかを知ることが、避難計画の第一歩です。
- 個別避難計画作成支援: 自治体によっては、高齢者や障がいのある方など、特に支援が必要な方のために、個別の避難計画作成を支援する取り組みを行っています。地域の社会福祉協議会や担当のケアマネジャー、自治体の防災担当窓口に相談してみてください。
- 地域の相談窓口: 災害への備えに関する相談は、地域の包括支援センターや自治体の福祉課、防災課などで受け付けている場合があります。不安なことや分からないことがあれば、遠慮なく相談してみましょう。
まとめ:今日からできる小さな一歩
「マイ避難計画」は、一度完璧なものを作ったら終わりではありません。時間とともに状況は変わりますし、必要なものも増えるかもしれません。定期的に家族で話し合い、見直していくことが大切です。
まずは、難しく考えすぎず、今日からできる小さな一歩を踏み出してみましょう。
- 家族で災害について少し話してみる
- 自宅のハザードマップを見てみる
- いつも飲んでいる薬の数を数えてみる
こうした小さな行動が、いざという時の大きな安心につながります。このガイドが、皆様の「マイ避難計画」を始めるための一助となれば幸いです。